BuzzFeed CEOが社員宛に送付したメモに含まれている、デジタルメディアの未来に関する深い洞察と7つの視点

市川裕康 | Hiroyasu Ichikawa
SocialCompany
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8 min readDec 21, 2016

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screenshot from BuzzFeed CEO’s memo published on Recode

2016年も残すところあと10日となり、2016年の振り返り、或いは2017年に向けての予測などについて過去・現在のデータに基づいての分析が多く紹介されていますね。2016年、どんな一年でしたか?

そんな中、気になったのがBuzzFeed CEO Jonah Peretti氏の社員に向けてのメモでした。

本来公開されるべきものではないかもしれませんが、テック業界のニュースサイトであるRecodeに全文が公開され、ご本人も記事のリンクをツイートされていることもあり、備忘録的にメモしてみたいと思います。何より内容がとても示唆に富むものであり、デジタルメディア、ジャーナリズム、広告業界の未来に関しての洞察が描かれていて、業界関係者全ての人が共有しておくべきような視点が含まれていると思ったからです。

文章の前段としてやはり大統領選のプロセスを振り返りながら、いろいろな人がいろいろな思惑を持ち、ソーシャルメディアのプラットフォーム上で情報の送受信可能な時代における危機について触れられています。ソーシャルメディア上に溢れるUGC(User Generated Content)には、フェイク・ニュース、低コストでセンセーショナルなまとめ記事、広告収入目的のあやしい取組み、狂信者によるハッキング、政治的な思惑を持った人、十分な知識を持ちえてない著名人による意見、ネット上のいじめ、誤解を招く情報やファクトチェックされてない嘘を含む選挙候補者による市民への直接的なアプローチなどがあり、これらは民主主義にとって害悪であり、世界にとって危険であり、緊急度を持って修復すべきる問題である、と指摘しています。

このような状況に直面にしているにもかかわらず、旧来の伝統的なメディア組織はデジタル化に十分に対応できてないことで、良質なジャーナリズムを担保するためのリソース(予算)が間違った場所に配分されることになり、そこで生まれた空白に、疑問視すべき情報源を元に最低価格で量産されるコンテンツが氾濫するという事態を招いていると指摘します。人々が注意・時間・アテンションを割くメディアは既に変化しているにもかかわらずコンテンツ製作のためのリソースが変化に対応していない、と。

こうした変化はニュースのみならずエンターテイメント、広告ビジネスの中でも見られていて、特にソーシャルメディアとモバイルプラットフォームの登場により今後想像できないような大きな変化・可能性があることを意味すると強調します。

以下の4つの図はメディアの発展段階を具体的に示してくれています。
【1:左上】一方的に情報やコンテンツを届ける伝統的なメディアのアプローチ(残念ながら今も多くの伝統的メディア組織がとっている手法)、そして【2:右上】Yahoo, Youtubeに見られるような初期のデジタルメディアプラットフォームによって、広告に支えられた無料コンテンツをいつでもどこでも視聴できるようになりました。【3:左下】そしてデジタル化が進むことでページビューなどの反応を見ながらタイトルを変えたりパーソナライズすることが可能になりました(Netflix)など(観客の反応を見ながらどこが「ウケたか」などのフィードバックを活かすことが可能になったイメージ)。そして、【4:右下】ソーシャルメディアの登場により今まで情報の受け手としてしか捉えられてなかった個人同士がつながり始めます。コンテンツは単に情報としての価値を提供するのではなく、個人が他者とのコミュニケーションの手段として、人と人とを興味・関心・アイデンティなどの共通のコンテキストを介することでつながることをも可能にしたのです。

特に以下のパラグラフは力強いメッセージが込められています。

だからこそBuzzFeedは人々がコンテンツをシェアすることに常にこだわってきたのです。シェアするという行為はメディアが人と人の間にソーシャルなつながりをつくるということを示す最も明確な指標です。だからこそBuzzFeedはシェア・ステイトメント(シェアする際のコメント)やシェアする際に何を述べるかにこだわるのです。
シェアが発生する際に起きる価値の交換を研究するのはこのためです。「コンテンツをシェアする人にとっての価値はなにか?」、「シェアされたコンテンツを受け取る人にとっての価値は何か?」、「お互いにシェアを行う際の共有するつながり(bond)にとって、その行為の意味は?」
メディアの本質的なソーシャルな性質を理解することは最も大きな『デジタルの優位性』のひとつです。ソーシャルメディアの台頭とBuzzFeedの成長にも関わらず、業界の多くの人が本当の意味でこれらのことを理解するのにはもう数年はかかるでしょう。

まとめとして、以下のような7つの点がメディアの消費者にとっての恩恵をもたらすことを可能にし、それぞれの視点を常に頭の中に意識しながら日々の業務にイノベーションをもたらすことを促しています。

【1】Instant access to fresh content (新鮮なコンテンツにどこでもアクセスできること)

【2】On-demand access to entire media libraries(アーカイブも含めた全てのメディア・コンテンツにオンデマンドでアクセス出来ること)

【3】Nearly free distribution enabling many free ad-supported services(多くの広告に支えられたサービスを可能にするほぼ無料のコンテンツ配信)

【4】Global distribution providing access to content from every market(世界中全ての市場(地域)からアクセス可能なグローバルな配信のしくみ)

【5】Data about audiences allowing personalization and customization of content experience(視聴者のデータを収集することで可能になるパーソナライズ・カスタマイズされたコンテンツ体験)

【6】A feedback loop between audiences and content creators making media production more dynamic and responsive(視聴者とコンテンツクリエイター間のフィードバックループがもたらす、よりダイナミックで応答性のあるメディア製作)

【7】Social experiences where people can use content to communicate and connect with the people who matter to them and weave media into their daily lives(SNSなどによるソーシャル共有経験により、コンテンツを通じて互いに大事と思えることについての相互コミュニケーションやつながりがもたらされ、メディアが日常生活に織り込まれるようになること)

メモの後半には以下のような言葉も盛り込まれています。

『In the long run, the internet always wins.(長期的に見れば、インターネットは常に勝つのです)』

『ソフトウェアやモバイルが世界を食べつくす』 というメッセージがシリコンバレーを中心に生まれていますが、もはやそれはあらゆる業界に変革をもたらしていて、メディアの世界にもそのような変化は確実に無視できない影響力と共に起こりつつあることを強く感じさせてくれるメモでした。
社員のみなさんへの感謝や尊敬、そして一緒にそんなイノベーションを起こしていこう、という前向きなメッセージが込められている素敵な年末のメッセージですね。

せめてこうした洞察だけでも取り入れて、自分なりのイノベーションを少しでも進めていくことが出来るよう、2017年は一日一日を意識的に取り組んでいきたいと思いました。

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市川裕康/ ichi /media consultant passionate with #climatechange | #気候変動 #クライメートテック 関連調査・コンサルテイング https://bit.ly/climatecuration