巨大テックにとっての『不都合な真実』〜Netflix『監視資本主義:デジタル社会がもたらす光と影』感想

photo credit : Netflix

9月9日にNetflix ドキュメンタリー作品『監視資本主義:デジタル社会がもたらす光と影』（原題：The Social Dilemma）が公開されました。

巨大テック・プラットフォームがスマホ依存症、政府のプロパガンダ、陰謀論、フェイクニュース、社会の二極化・分断、民族対立、選挙不正、民主主義の脅威、とまで批判されている現状に関して、プロダクトを作り出した当事者や専門家へのインタビュー、そして分かりやすく伝えるためのドラマ仕立ての物語を紡ぐ形で構成されている94分のドキュメンタリー作品です。

いくつか気になった点、感想などを箇条書きで書き留めておきたいと思います。

1. Google、Facebook、YouTube、Twitterなどの巨大ソーシャルメディアプラットフォームにおいて主要なサービスの開発に携わった人が実名で数多くインタビューで登場し、懸念、不安を力説している点は、危機感を指摘する内容となっていて、考えさせるきっかけや視点を提供してくれる作品、と感じます。
2. 少人数の開発者・デザイナーが20億人以上のSNS利用者に大きな影響を及ぼしている状況を説明する方法として、SNSの閲覧履歴、居住地、行動履歴などの大量のデータに基づくアルゴリズムを活用することで「最適化」し、収益の最大化を目指さざるをえない資本主義の現実がドラマ仕立てで詳しく描かれています。その中で自分のタイムライン上でのコンテンツが何秒表示したか、というレベルまで把握されているという指摘には驚きでした。紹介動画でもその様子が描かれています。
3. 本作品に登場するのはグーグルやフェイスブックの「元」従業員ばかりで、巨大テック企業による問題改善のための取り組み、反論、説明する機会が与えられてない点は、やや一面的で、『偏っている』印象を持ったことも事実です。作品の中で中心的な役割を担っているグーグルの元「製品哲学担当者」であり、非営利団体「人道的テクノロジーセンター（Center for Humane Technology）」の共同設立者であるトリスタン・ハリス氏と、本作監督であるジェフ・オーロフスキー氏がスタンフォード大学での同級生だった、という点はあえて触れておきます。
4. 作品を通じて問題点が分かりやすく詳しく描かれているものの、解決策に関しては最後の最後の部分でいくつか一般的なことが述べられているだけにとどまり、少し物足りなさを感じました。エンドロールが流れる中、以下のような個人的なアドバイスとして、いくつかのヒントが紹介されています。
   「通知を切る」、「SNSでシェアする前にファクトチェックすべき」「Googleの代わりにプライバシー重視のQwantを使っている」、「YouTubeで推薦される動画は観るべきでない」、「YouTubeの推薦を削除するChrome拡張機能を使うとよい（YouTubeの推薦アルゴリズム開発者からのアドバイス）」「子供は16歳までSNS禁止」など。
5. とはいえ、本作品を通じて世の中で多くの人が十分に理解することが難しい大きな課題が描かれていて、そうした論点についての「議論のきっかけ」を提供している、という点で素晴らしい作品である、と感じます。作品公開に併せて数多くのメディアでレビューが掲載されていることからも注目度が伺えます。（Wired / FT / NYT / Washington Post / The Gurdian / FastCompany ) 。
6. 作品公式サイトにはより深く問題を理解し、解決策を模索するための多くの情報源、リンクが掲載されています。

作品公式サイト：https://www.thesocialdilemma.com/

作品中何度も登場するトリスタン・ハリス氏ですが、2017年のTEDトークは既に270万回以上再生され、目にしたことがある人もいるかもしれません。ドキュメンタリーの中でなぜ彼がこうした活動に取り組むようになったかも詳しく描かれています。グーグルで働いている時に作成し、社内で話題になったというプレゼンテーションは今もオンラインで公開されています。

TED Talk 2017

以上記憶が新鮮なうちに、ということで書いてみました。多くの人の目に触れることを願ってます。